校長ブログ

2018年04月26日

『子どもたちの階級闘争』③

前回紹介した「ソーシャルアパルトヘイト」という言葉は、近年の英国の教育界でよく
使われるようになったそうです。その意味するところは、2013年に発表されたナショナ
ルチルドレンズビューローによると、「子どもたちの生活があまりにも二極化し、裕福
な子どもたちと貧しい子どもたちが分離され、まったく触れ合うこともないパラレルワ
ールドで暮らす状況」を指すということです。
このレポート「Born to Fail?」は、以下のような指摘もしています。

 

・恵まれない環境で育つ子どもは、豊かな家庭の子どもと比較して、四歳の時点で成長
 や発達に大きな差がついている。
・貧困エリアに住む子どもは、家庭で不慮の事故に遭遇し怪我をする確率が非常に高い。
・貧困エリアに住む子どもは、それ以外の地域の子どもに比べ、新鮮な空気を吸って緑
 のある空間で遊ぶ機会が9分の1になっている。       (本書20ページ)

 

豊かな中間階級の子どもたちが預けられる保育園と、貧しい地域の無料託児所、その両方
で働いた経験を持つ著者は、表面上の学力差よりも、幼い子どもたちの手先の発達の差に
一番驚かされたといいます。「保育園の三歳児は、底辺託児所の三歳児にはとても折れな
いような形を器用に折ることができた」(本書21ページ)
保育園の費用は地域によって違うそうですが、例えば英国のブライトンでは、1人を預け
た場合の1カ月の費用は、平均約14万円。もちろん2人を預ける家庭も珍しくなく、それ
ゆえに英国の保育園は「ミドルクラス家庭の御用達施設」と呼ばれるのだとか。
さらにパブリックスクールと呼ばれる英国の私立校は、年間の学費が平均で300万から400
万。私が直接聞いた経験では、学費だけで700万円、寮費を入れると年間1,400万円(!)
という学校もありました。

折しも4月5日(木)に発表された朝日新聞社とベネッセの共同調査(朝日新聞4月5日朝刊)。
その調査によれば、経済的に豊かな子どもほど、よりよい教育を受けられるのは「当然だ」
「やむをえない」という回答が、日本でも6割を超えていました。
お茶の水女子大学の耳塚教授は、「変化が大きかったのは、2008年と13年の間だ。メディア
などで「子どもの貧困」が取り上げられ、人々が認識するようになった時期と重なる。貧困
の再発見は皮肉にも、「やむをえない」というあきらめを広めたのだと思う」と述べておら
れます。
将来、日本でも英国のような互いが触れ合うこともない階層的な子ども社会がやってくるの
でしょうか。そして、その時、人々はそれを容認するのでしょうか。本書を読んで、そんな
不安をおぼえました。
福力